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長崎伝習所平成23年度研究成果報告書(3) 町ねこ調査の経過について

町ねこ調査の経過について

・町ねこカルテ

2011年5月に長崎町ねこ調査隊塾が発足してお互いの顔合わせが済み、各塾生の「ねこエピソード」を述べ合ったりして連帯感を高めたあと、いよいよ「町ねこ調査」なるものの実際を定例会で取り上げたのは6月4日のことだった。できあがったばかりの「ながさき町ねこカルテ」が塾生に配布される。A5横サイズのカードの左側にはねこの名前や性別、記録場所などの記入欄とメモスペース、右上にはねこの大きさやしっぽの長さ・太さ、毛色・毛柄などの記入スペース、そして右下にはひときわ目を引くねこの顔と体のようすを描き込むための「塗り絵」欄。

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【町ねこカルテイメージ】

「これさえあれば、誰でも、どんなねこでもきっと識別調査ができます」――とは言っても、これまでの各塾生のねこへの関わり方はさまざま、20匹以上の保護ねこを抱えて獣医顔負けの知識を持っている塾生もいれば、これまで特にねこを飼ったことがない塾生もいる。「最低限これだけは共有しておこう」と作った資料は、(1)ねこの毛色・毛柄の表し方、(2)細部の特徴への注目のしかたにポイントを絞った。

・ねこの細部に注目する

「茶色の縞々のねこは、黄土色の地に赤茶の縞を持つ〈チャトラ〉と、薄茶色の地に焦茶の縞をもつ〈キジトラ〉がいる」「黄・茶・黒の3色が入り混じった複雑な模様のねこを〈サビ〉という」「三毛猫のぶちは手足や顔・胴のどの部分にどんな色が入っているだろうか」「チャトラの額にはM字の縞か平行縞かどちらがあらわれているだろうか」などなど、実際の長崎の町ねこを撮影した写真をもとに、みんなでわいわい話しながらチェックしていく。

「あら、うちの前飼っていた子にそっくり」「この子は鼻の部分のぶちで器量が台無しねえ」「ひとことで〈三毛〉と呼んでいたけど、一匹一匹柄がこんなに違うもんかね」。写真をカルテに描き込んでいくうちに、ねこの体の隅々にまで注意を払うようになっていく。しっぽの長さは? 太い?細い? どこかに特徴的な柄は? この模様はいったいなに色の毛が集まって表われるのか? おなかの白い部分はどこまで?

・カルテを持ってまちに出る

ひとしきりカルテと格闘してから、いよいよ実地に繰り出した。場所は市民会館から寺町周辺、ねこがすぐに見つかるかどうかが懸念されたものの、すぐにとびきりフレンドリーなクロ、サビ、シロたちに出くわす。写真撮影とカルテ作成の2人1組で分担のはずだったが、まずはみんなねこをナデナデ……ナデナデ……ナデナデ……と、ねこ好きぶりを各自遺憾なく発揮。

結局最初のねこたちを20分近くもかまった(かまわれた?)あと、次のねこ探しへと移動して、またそこでもナデナデして写真を撮ってカルテを描いて、都合1時間ほどかけて15匹ほどのねこたちに出会ったのが、町ねこ調査隊塾での初町ねこ調査だった。

・ねこを「識別」する

大事なのはその次の回、6月19日の定例会。「前回識別してカルテにした町ねこを、今回も識別できるか?」 それができてこその「個体識別」であり、継続調査としての価値が出てくるのだが、果たしていかに――と、これまたうまい具合に、4日の調査の時に顔だけ記録したら逃げてしまった三毛の子ねこのカードと、目の前で走り回っている三毛の子ねこの柄がぴったり重なった。「おお!」と感動する間もなく、急いで体と手足の特徴をカードに追記する。写真班も何枚か三毛の写真を記録に収めて完成した町ねこカルテは、後日開かれた「ながさき町ねこ写真展」でも展示された。

効果が実感できればしめたもので、この日はそのまま延命寺まで足をのばし、識別しづらいキジ・サビねこの多さにたじろぎつつも、カルテの枚数は着実に増えていった。

・データを蓄積する

秋頃までには、調査技術にも次第に磨きがかかり、単独で写真撮影・カルテ作成と継続観察を行なう塾生もぼちぼち現れるようになった。その結果の一部は今年度の塾成果のひとつである『ながさき町ねこハンドブック』に掲載されている。

2011年度末現在で、ある程度の分量の調査データが蓄積できた地区は寺町周辺、西坂公園周辺、住吉町、長崎大学文教キャンパスの4か所、1回~数回の単発調査を行なった地区は伊良林、新大工町・桜馬場・鳴滝周辺、丸山町・寄合町・中小島周辺、十人町・中新町・館内町周辺、ダイヤランドの一部、曙町、青山町などとなっている。

・町ねこ調査から見えてきたこと

これらの町ねこ調査を通じて見えてきたことはいくつかあるが、何よりも重要な点は「調査をすることによって初めて、自分が今までいかに漠然としか町ねこを見ていなかったかを実感した」という点である。塾生は(濃淡こそあれ)ねこは好きであり、みな自分なりに関心を持ってこれまでも町ねこに目を向けてきたつもりだったが、調査のために路地を一本一本入り、家と家のすきまをのぞき込みながら歩くことで、思いのほか豊かな町ねこの世界を垣間見ることになった。そしてまたその町ねこの世界は密接に私たち人間の生活空間とつながっていて、ねこ好きもそうでない人も町ねこも否応なしに併存していることも痛感させられた。

裏を返せば「町ねこ調査をする」ということは、そうした「人間とねこは同じまちのなかでともに暮らしているということを改めて考え直す」機会だと言える。町ねこのカルテを1枚1枚描くことを通して、それぞれのまちの人間とねこの関係は、ありありと見えてくる。丸々と太って幸せそうなのか、毛並みもやつれお腹をすかせてうろついているのか。たくさんの子ねこが生まれたと思ったらいつの間にかいなくなるまちもあれば、迷い込んだノラネコに優しく手をさしのべるまちもある。ペットボトルやねこよけの並ぶまちなみのすぐ隣には、きれいに手入れのされたフラワーポットのそばでねこがのどかに昼寝をするまちなみが連なっていたりもする。

少し大げさな言い方をすれば、「町ねこは、その町を映す鏡である」ということになるだろうか。願わくは、すべてのまちで人とねことが宥和して暮らすことができますように。

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